Biodiversity intervention enhances immune regulation and health-associated commensal microbiota among daycare children
Biodiversity intervention enhances immune regulation and health-associated commensal microbiota among daycare children.
Roslund MI, Puhakka R, Grönroos M, et al (2020)
Sci Adv 6:eaba2578.
森の自然を取り込んだ園庭が園児の免疫を改善か、フィンランド自然資源研究所
子どもの体の細菌叢に多様化をもたらし、免疫機能も改善される可能性
2020.10.29
[HealthDay News 2020年10月15日]
子どもの免疫システムを強化したいなら、泥遊びをさせると良いかもしれない。フィンランドの研究で、保育園の園庭を、森の土や植物のある自然豊かな環境に変えたところ、園児の炎症レベルが低下し、免疫機能の改善が認められたからだ。フィンランド自然資源研究所のAki Sinkkonen氏らが実施したこの研究の詳細は、「Science Advances」10月14日オンライン版に発表された。
近代的な生活と免疫機能の関係については、これまで多くの研究が実施され、その結果が報告されている。例えば、農場での生活経験(特に小児期の)がアレルギーリスクの低下に関連することや、近代に入って普及した抗菌作用のある石鹸の使用や加工肉の摂取、抗菌薬の使用などが、身体の細菌叢の多様性を低下させる可能性が示唆されている。
そこで、Sinkkonen氏らは、生物多様性を都市の環境に持ち込むことで、子どもたちの細菌叢の多様性が高まり、免疫機能が変化するかどうかを調べる研究を実施した。対象とされたのは、フィンランドの計10カ所の保育園に通う、3~5歳の子ども75人である。Sinkkonen氏らは、これら10園のうちの4園(介入群)には、砂利が敷かれた園庭に森の土や芝生、草を敷き詰め、一年生植物のプランターや子どもたちがよじ登って遊べるブロック状の泥炭を用意した。これ以外の6園は対照群とした。このうち3園は“自然志向の園”として、子どもたちを定期的に近隣の森に連れて行く活動を行った。残る3園は、ほとんど自然のない園庭で通常通りの保育を行った。解析は、介入群と対照群との間での皮膚細菌叢と腸内細菌叢、および血液中の免疫バイオマーカー(サイトカインレベル)について行われた。
その結果、研究開始から28日後には、介入群の園児の皮膚において、プロテオバクテリアのグループ、中でもガンマプロテオバクテリアの多様性が高まっていることが確認された。プロテオバクテリアは、真正細菌の主要な分類群の一つで、アルファ、ベータ、ガンマプロテオバクテリアなど5つに大別される。このうち、ガンマプロテオバクテリアには、腸内細菌やシュードモナス属など医学的に重要な細菌が含まれる。一方、通常の保育園の園児では、皮膚の細菌の多様性は全般的に低下していた。また、介入群の園児の腸内細菌叢は、毎日森に出かけていた“自然志向の園”の園児の腸内細菌叢に似ていることも分かった。
さらに、介入群の園児から採取した血液を基に、サイトカイン〔IL-10、IL-17A、トランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)〕および制御性T細胞の割合などを分析し、皮膚細菌叢の多様性の増加との関連を調べた。その結果、皮膚細菌叢の多様性の増加に伴い、介入群の園児では、血液中のTGF-β1レベルと制御性T細胞の割合の増加、およびIL-17Aレベルの低下が認められた。TGF-β1には抗炎症作用があり、制御性T細胞には過剰な免疫反応の抑制作用がある一方、IL-17Aは自己免疫疾患の発症に中心的な役割を果たすとされている。このように、多様性を持つ自然環境に子どもを置くことは、子どもの体の細菌叢に多様化をもたらし、免疫機能も改善される可能性のあることが示唆された。
これらの結果について、この研究には関与していない専門家の一人で、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のJack Gilbert氏は、本研究で、子どもを自然環境に置くための包括的な手法が取られた点を高く評価する一方で、規模が小さく、確認された効果量も小さい点を指摘。「今後、より多くの園で、より多くの小児を対象に研究を行い、検証する必要がある」との見解を示している。
なお、Sinkkonen氏は、今回の研究で欠かせない要素は、土の表層に含まれる細菌だとの見方を示している。また、研究対象の子どもたちは、土を掘ったり、植物を植えたりするなど土にまみれながら活動的に遊んで過ごした点を強調。「草木を植えただけでは効果は得られない可能性が高い」と話している。
Abstract
As the incidence of immune-mediated diseases has increased rapidly in developed societies, there is an unmet need for novel prophylactic practices to fight against these maladies. This study is the first human intervention trial in which urban environmental biodiversity was manipulated to examine its effects on the commensal microbiome and immunoregulation in children. We analyzed changes in the skin and gut microbiota and blood immune markers of children during a 28-day biodiversity intervention. Children in standard urban and nature-oriented daycare centers were analyzed for comparison. The intervention diversified both the environmental and skin Gammaproteobacterial communities, which, in turn, were associated with increases in plasma TGF-β1 levels and the proportion of regulatory T cells. The plasma IL-10:IL-17A ratio increased among intervention children during the trial. Our findings suggest that biodiversity intervention enhances immunoregulatory pathways and provide an incentive for future prophylactic approaches to reduce the risk of immune-mediated diseases in urban societies. 先進国社会では免疫介在性疾患の発生率が急速に増加しており、これらの疾患と闘うための新たな予防法が求められている。本研究は、都市環境の生物多様性を操作して、常在細菌叢と小児の免疫調節に及ぼす影響を調べた初のヒト介入試験である。私たちは、28日間の生物多様性介入期間中の子どもたちの皮膚と腸内細菌叢、血中免疫マーカーの変化を分析した。比較のために、標準的な都市型保育所と自然志向型保育所の子どもたちを分析した。生物多様性介入により、環境および皮膚のガンマプロテオ細菌群集が多様化し、血漿中TGF-β1レベルおよび制御性T細胞の割合が増加した。血漿中IL-10:IL-17A比は、試験期間中に介入児の間で増加した。この知見は、生物多様性の介入が免疫調節経路を強化することを示唆し、都市社会における免疫介在性疾患のリスクを軽減する予防的アプローチを将来的に行う動機付けとなる。 https://gyazo.com/e35a87ff07ba99380a72ae5658f68da2
Fig. 1 Diversity and richness of bacteria in daycare yard soils and on the skin of daycare children.
After the trial, (A) Gammaproteobacterial and (B) total bacterial ground surface soil community was more diverse at intervention daycare yard soils compared to standard daycare yards. On the skin, the alpha diversity (Shannon index) of (C) Proteobacteria was higher among children in intervention (n = 29) and nature-oriented daycares (n = 19) compared to children in standard daycares (n = 13) after the study period. (D) Alphaproteobacterial diversity on the skin of the intervention daycare children increased during the intervention, and it was higher compared to children in standard daycares after the study period. (E) Betaproteobacterial diversity was higher among nature-oriented and (F) Gammaproteobacterial diversity higher among intervention daycare children compared to children in standard daycares after the study period. Data are displayed as means ± SE. *P < 0.05 and **P < 0.01, t tests after the intervention (A and B), Dunn’s multiple comparison post hoc tests after the intervention (C to E), and Wilcoxon signed-rank test (D).